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飼育農家 河合宏起さん
泰阜村から阿智村へ。
祖父の後を継いで、
黒毛和牛の飼育農家に。
若い世代が頑張っているので、 仲間でよく 情報交換しています。
阿智村伍和の栗矢地区で黒毛和牛の繁殖農家を営む河合宏起さん。
「今ここには黒毛和牛の母牛が18頭、仔牛が11頭います。牛の飼育農家には役割分担があって、うちは母牛を飼育し子どもを産ませて7?9ヶ月ぐらいで出荷するまでの『繁殖農家』をしています。阿智村には繁殖農家が結構多く、若い世代が頑張っているので、仲間で餌や繁殖のことなどよく情報交換していますよ」
牛舎にほど近いご自宅は平成27年に新築。妻の美沙紀さんと元気いっぱいの蓮叶くん、藍叶くん、蕾叶くんの三兄弟の5人家族で暮らす。隣接する旧宅には、宏起さんのおばあちゃんがお住まいになっている。
そもそも宏起さんが畜産の仕事に興味を持ったのは、どんなきっかけだったのだろう。
「自分は泰阜村の出身です。河合家は母の実家で、小さい頃から行ったり来たりしていました。祖父が牛を飼っているのを幼い頃から見て、時々手伝ったりしているうちに将来自分もやってみてもいいかなと思い始めたのだと思います。河合家には後継者がいなかったので、中学生ぐらいのときに祖父の後を継いで牛をやろうと決意し、地元の阿智高校に通うタイミングで養子縁組をして河合姓になりました。長男なんですけどね、両親がよく許してくれたな…と今でも思いますよ」
妻の美沙紀さんは平谷村出身。宏起さんとは、高校時代同じテニス部で毎日を過ごした仲間同士でもある。
「もともと動物は好きなので、主人が牛の飼育農家であることに特に抵抗はありませんでした。今は子育てに忙しい毎日でなかなか牛の方は手伝えないんですけど、今後牛の出産に立ち会ったりしたら感情移入してしまうかもしれないですね。子どもたちはよく牛舎に来て、えさやりなど手伝ってくれていますよ」
やさしい眼差しの向こうで、最近やっと牛に慣れてきたという三男の蕾叶くんが、お兄ちゃんたちに負けじと一生懸命わらを運んでいた。
「部活内の練習試合では、一度も彼女に勝てなかったんですよぉ」と宏起さん。
「夜中でもひとりで牛舎に行って分娩に立ち会う姿、仕事とはいえたいへんだなと尊敬しています」と美沙紀さん。
宏起さんの1日は長い。
「夏場だと朝7時ぐらいにまず水やり、えさやり、たい肥出しをします。日中は牧草や周辺の草刈りなどをして、夕方にまた水やり、えさやり、たい肥出し。さらにお祭りシーズンは合間に花火の打ち上げに行ったりしています。花火が終わると、ちょうど干し柿のシーズンなんでまた忙しくなるんですよね」
「煙火打揚従事者」の資格を持つ宏起さん。7月から10月中旬ぐらいまでは、ほぼ毎週末南信州エリアのあちこちの花火大会で、準備から打ち上げ、片づけに奔走。合間を縫って牛舎に戻り牛の世話にあたるという慌ただしい日々を送っている。
「栗矢地区は、15年位前から秋祭りで花火を上げるようになり、地元の花火だけは自分たちでやろう、と地区の先輩方が皆打ち上げの資格を持っているんです。僕は資格を取って10年ぐらい。もちろん栗矢の花火も打ち上げています」
「生き物を相手にするこの仕事に365日休みはありません。子どもたちも小さいので家族でゆっくり旅行に連れていってあげたいと思っても、牛のお産と重なったりしてタイミングが合わないこともあり、申し訳なく思っています。たいへんなことも多いですけれど、自分はサラリーマンのように誰かに指示されて行動するより、自分で考え判断できるこの仕事があっているんじゃないかな」
地元育ちでないため、河合家に入ってしばらくは仕事をしていても近所のおじさんに「おい、どこのあんちゃだな?」と言われていたと笑う宏起さん。
「5年ほど前に、牛のことも地区のこともおまえに任せる、と亡き祖父に告げられてから、以前に増して積極的に地区のことも牛のことも関わるようになりましたね」
元気いっぱいの蓮叶くん、藍叶くん、蕾叶くん。
三兄弟なら、どこでも楽しい遊び場だ!